2003年発表。夕陽を写した手と、青い空を写した手が交差し、X(10)を表している、まさにイビサを特徴づけている爽やかなジャケット。しかしイメージとは裏腹に、収録曲はダークで哀愁を帯び、プログレッシブでテクノ感のある、爽やかさよりはディープな曲に重きを置いている。そういった意味ではジャケ詐欺に近い構成。もちろん一曲一曲のクオリティは高く、コンパイラーのBruno Lepretreの審美眼の光る作品になっている。
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1.Substructure – Firewire
イギリス出身のPaul RogersとChris Gainerによるプロジェクト。
ダークなプログレッシブさの香るダウンテンポな曲調。荘厳な雰囲気があり、大聖堂に足を踏み入れるかのような緊張感を覚える。重厚でありながら内省的なサウンドが神秘さをも内包しており、聴く者を深い沈黙の中へと引き込む。
2.Remote – Postcard
デンマーク出身のMiroの2人であるMads Arp と Steen Thøttrupの変名プロジェクト。シリーズ3、9からの常連となっている。共同プロデューサーにBrian Enoが名を連ねている。
シンセサイザーが爽やかな雰囲気を纏い、緩やかなビートが波を思わせる。彼方から送られてきたポストカードには青い海と白いサマーベッド。眺めていると、いつの間にかそこへ座っている自分がいる。
3.Future Loop Foundation feat. Michael Conn – My Movie Is Like Life
イギリス出身Mark Barrott。アンビエント、ドラムンベースをスタイルとしている。
トランペットが叙情的に響き、可愛らしく艶かしく囁く歌声が官能的な曲。ビートも変則的でありながら、しっかりと聴く者の気分を持ち上げ、しかしチルアウトであることを忘れない。その心地良さがたまらない。逆説的なタイトルが、ゴージャスに聴こえる音楽だが骨太な作品であることを表している。
4.Lovers Lane – Face of Beauty (original mix)
シリーズ9から、再びBruno LepretreとAnsgar Üffinkによるプロジェクト。
Lovers Lane名義としては珍しく明るい曲調。緩やかな曲調ながら、エレクトロな楽器の音でチャカチャカと賑やかな様子がおもちゃ箱のよう。波打ち際で子どもが遊ぶ様を、中年になった家族が飲みながら眺めているような、どこかノスタルジックな情景が浮かぶ。
5.DAB – The Blues
スペイン出身、Luis SanchoとドラマーのPedro AndreuのDigital Analog Band。トリップホップ、ダウンテンポなどとジャズ、フラメンコ、ダブと融合させた音楽を作成している。
曲名通りのブルース調で、いぶし銀の渋さのある曲。トリップホップな曲調が、暗い室内か夜の静かなテラスで聴きたくなる。か細くも叙情を掻き立てるギターや中盤からのボーカルが、より夜のムードを心地よいものに仕上げている。
6.Rue du Soleil – In My Heart
シリーズ9から再登場、スイス出身のAlfonso Bianco, Dragan Jakovljevic, Yavuz Uslu, Claudio MontuoriとAndia Bischof-Foehrの5人。
少し切なげなイントロとダウンテンポ、エレクトロなギターの旋律と哀愁あるボーカルが重なり合い、しっとりと心を鎮めてくれる。そのメロディと感情のこもった歌声が、夕焼けの逆光の中でビーチに腰をかけるたくさんの人々のシルエットを映し出している。
7.Kinema – Katia
イギリス出身、Bernard LermitとBob Templar。ダブ、ダウンテンポ、アンビエントをスタイルとする。シリーズ9ではSoft Wave名義で出演。
妖艶な笛の音と重めのダウンテンポ、シンセが重力を感じさせる。強制的クールダウンのように落とし、瞼を重くする。笛やドラムが民族的な響きを生み出し、瞑想状態へと導く。内省的な感情と、自然と一体となるような感覚になる。
8.Rhian Sheehan – Garden Children
ニュージーランド・ネルソン出身のRhian Sheehan。アンビエントとオーケストラなどを融合させた映画的音楽で知られる。また、映画『アバター』にも出演しているという。
ダウンテンポでエレクトロニックなサウンド。どちらかといえば色とりどりのネオンが輝く街中でのチルトリップに向いている曲。サイケデリックな情感が、脳みそを揺らしてくるような感覚に陥る。
9.Terra Del Sol – Sea Goddess
ドイツ出身のHelmut HoinkisとAlberto Ingo Hauss。Helmut Hoinkisは2021年に亡くなっている。
やや暗めのビートのイントロ。夕方から鳴き出す虫の音と重厚なギターが音を紡ぐ。そして夜の帷の向こうへ誘い出す。そこにいる女神はどんな者なのだろうか?
10.Ohm-G & Bruno – On Your Skin
ドイツ出身のOlaf Gutbrodと、Bruno Lepretreの共作。
アダルトな雰囲気を醸し出す曲調。民族的な打ち鳴らしもあり、静かに燃え上がるような曲。1日楽しんだ後の、タイトル通りベッドで聴くのが良さそう。決していやらしいだけでなく、味わった時間を慈しむようなゆったりとした経過を感じさせる。
11.Nacho Sotomayor – Remember You
スペイン出身のIgnacio Sotomayor Román。アンビエント、ダウンテンポをスタイルとする。
少し不安になるような、まるで雨か霧に見舞われているような気分になる。ややテクノ色が強く、ダークなアンビエント作品。どこかクラシックな雰囲気を持つのはバイオリンだろうか? 観客たちが怪しいムードに酔いしれて、目を瞑り頭をゆらゆらとさせている光景が目に浮かぶ。
12.Vargo – The Moment (original mix)
ドイツ出身のAnsgar Üffink。Lovers Laneでの名義ではBrunoと共作している。ボーカル担当のStephanie Hundertmarkは2014年でVargoを脱退している。
切なげなフラメンコギターの旋律と、ステファニーの少し低音掛かった歌声がより哀愁の深みを感じる。まさしく夕陽が彼方へ沈み込む瞬間に聴いていたい曲。
13.Ypey – Without You
フランス出身のGregory Grimaldi。
オーケストラのような開幕で、映画音楽のような物語を感じる。ダウンテンポであり、ややクラブ色が強いか。アルバム自体がプログレッシブさや重低音が多い構成になっており、これも一つの時代性を反映しているのだろうか。
14.Blank & Jones feat. Anne Clark – The Hardest Heart (ambient mix)
シリーズ9から再び、ドイツ出身のJan Pieter BlankとRene Runge。原曲はAnne Clarkの『The Hardest Heart』。
何にでもAmbient mixをつけて出して・・・と思いきや、アレンジにより別物になっているのがBlank & Jonesである。ダウンテンポな曲調にAnne Clarkのリリックが詩的に響く。浜辺で耳を傾け、ここに波音が乗ることで完成しそうな曲。爽やかというより、深みに重点を置いた作品。
15.Eric Satie – Gymnopédie No.1
フランス出身のクラシック音楽家Alfred Éric Leslie Satie。
言わずと知れているであろう偉人。自身の音楽の傾向を「家具の音楽」と称して、酒場などで客の邪魔にならないようにしている演奏が、家具のように存在している音楽であるとしている。彼のこの意識がcafé del marの意識と近しいのかもしれない。
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