Café del Mar 18(Volumen Dieciocho)

音楽/Music

2012年発表、コンパイラーはToni Simonen。Café del Mar再出発という意味があるのだろうか? クレジットされるアーティストが大きく一新されている。その多くが過去に参加した、一時の黄金期を彩ったメンバーでありながら、現在も第一線で活躍を続ける者たちばかりである。Toni Simonenの選出がクレイジーとさえ思えるが、居並ぶ曲たちは追随を許さない。

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CD1

1.D*Note – Love Is Wise

イギリス出身、Matt Winn (Matt Wienevski)とMatt Cooper。シリーズ2という最初期に出演している。ニュージャズ、ドラムンベース、レアグルーブをスタイルとする。

フルートの軽妙な響きに、バレアリックな情感が鮮明に溶け込み、重ねられたピアノが波の煌めきやサンセットの光を想起させる。D*Noteはシリーズ2の『D*Votion』でも澄んだアンビエントを披露している。

2.Blank & Jones with Jason Caesar – Hideaway

ドイツ出身、Jan Pieter BlankとRené Patrick Runge、Andy Kaufhold。ボーカルはアメリカ出身のシンガーソングライター、Jason Caesar。

個人的にBlank & Jones 屈指の名曲。Jason Caesarの透明感を持ちながらも掠れた歌声が広く響き、雑音のない広大な海の情景をより深く感じさせる。Afterlifeがリミックスしたものなどもあるが、この原曲こそが神髄だろう。

3.Chris Coco – Cape Clear

イギリス出身、Chris MellorとSacha Puttnam。Chris Mellorはイビサにおけるシーン重鎮の一人。Sacha Puttnamは映画音楽制作を主にし、若い頃にはVangelisやQuincy Jones、Michael Kamenに直接指導を受けている。

クセのない、バレアリックサウンドを展開している。シネマティックさは控えめで、あくまでバックミュージックやムードのための音楽にてしており、それが心地よい時間を感じさせる。クリアーで穏やかなサウンドは、ふとすれば、意識せずに体に取り込まれる酸素のように自然に存在している。

4.Bent – The Park

イギリス出身、Simon Millsによるプロジェクト。

エレクトリックなオルガンと、ギターが織りなすオーガニックなサウンドが、昼下がりの公園のような、落ち着いた空間を表現している。チルできる場所はもちろん海岸だけにあらず、公園で寝そべったり、本を読んだり、おしゃべりしたり・・・思い思いに楽しむ時間こそがchill outなのだろう。

5.Ultra Naté – The Rush

アメリカ出身の歌手・DJのUltra Naté Wyche。DJ Spinna(Vincent Williams)やエンジニアにHiroyuki Sanadaという日本人が関わっている。Ultra Natéは『Free』は特に知られているのでは。

一瞬、プレイリストが切り替わったかと思うほど、ドラムの効いたオープニング。バックはジャジーさが漂うダウンビートの曲だが、ボーカルのポップさも相まってナイトラウンジ感が満載の曲となっている。

6.Lux – Sunset Disco

イギリス出身、Steve MillerとJames Bright。

やや電子音が強調された、ダウンビートサウンド。Luxの曲は、特に北欧の冷感がありつつも、それゆえの温かみも感じられる独特のバランスが魅力である。

7.Talvin Singh & Niladri Kumar – The Bliss

イギリス出身のTalvin Singhとインド出身、シタール奏者のNiladri Kumar 。

ビートのないシタールの旋律が、砂混じりの乾いた風を感じさせるエスニックに満ちた曲。決して哀愁だけではなく、未知への勇気を奮い立たせるような強さを秘めている。

8.Chicane – Goldfish

イギリス出身、Nicholas Bracegirdle。ボーカルはJoseph Aquilina。

ビートレスに仕上げられた、雄大さを感じさせる曲。Chicaneの熟練の技はプログレッシブでありながら、きっちりとchill outさせる。透明感のある金魚鉢が、まるで小さな海洋がそこにあるように感じさせる。

9.Unkle – Trouble in Paradise (Variation of a Theme)

イギリス出身、James Lavelle、Pablo Clements 、Aidan LavelleとPhilip Sheppard。初期のUNKLEにはDJ Shadowや、日本のヒップホップクルーMajor Force の工藤昌之と中西俊夫などが参加している。

静けさの漂うシネマティックなイントロから、徐々にドラマティックな盛り上がりを見せる。どこかタイトル通り、緊迫感を持ち、イビサのビーチで野外上映される宇宙映画のような印象。

10.Moby – Lie Down in Darkness (Ben Hoo’s Dorian Vibe)

アメリカ出身、Richard Melville Hall。ボーカルはJoy Malcolm。アレンジにBen Ononoが参加している。

ダークでダウン、そして洗練されたナイトラウンジを感じさせる。ソウルフルでクリアーなJoy Malcolmの歌声に、ジャジーに重なるリズムが、しっとりとした情景を描いている。

11.Ben Onono – Big Blue Moon

イギリス出身、Benjamin Onono Arinze。

ナイトラウンジを一歩出れば、月明かりの下でライブをやっているようなムード。一聴すればより落ち着き、上がりすぎた心に程よくブレーキをかけてくれる。

12.Lamb – Dischord

イギリス出身、Louise RhodesとAndrew Barlow。

CD1のエピローグを飾る曲だが、2分少々に込められた短いメッセージに、あらゆる感情が込められている。ダークな雰囲気でありながら、哀愁あり、儚い希望あり・・・想いを断ち切るかのような、それでいて大きな期待をさせる印象深い曲。

CD2

1.Afterlife – Espalmador

イギリス出身、Steve Miller。本アルバムではLux、Kid Stone、No Logo名義でも活躍ぶりを見せつけている。

CD2オープニングでは、雷雲が消え去り、青い空が広がっていくような光景を印象付ける。雲が風に流れ、波は穏やか。全身に感じる微風に髪をくすぐられ、光が満ちていく。

2.Gelka – Have You Kept Your Ticket?

ハンガリー出身、Csaba KürtiとDömötör Sándor。

シンセやギターのサウンドに、様々な環境音を取り入れ、心地のよいムードを構築している。極上のもてなしのために設られたその空間に身を置くように、その期待感を見事に音楽へと昇華させている。

3.Ganga(& Erik Satie) – Gymnastics

デンマーク出身、Christian Rønn。サンプリング曲は言わずと知れた Erik Satieの『Gymnopédies』。

なぜこうも海外の人はこの曲が好きなのか。AIに聞いてみたら、西洋人は感じ方が違うようだ。

”西洋クラシック音楽にはしばしば壮大さや複雑な構造が求められますが、サティのジムノペディはその対極に位置します。曲はシンプルなメロディとハーモニーで構成され、「静けさ」や「空虚感」を感じさせる美しさがあり、多くの西洋人にとってそれが新鮮で心を落ち着かせるものとして映ります。特に、ミニマリズムやアンビエント音楽の愛好者にとって、サティの音楽はその原型ともいえる存在です。”

4.Faithless – Love Is My Condition (feat. Mia Maestro)

イギリス出身、Maxi Jazz(Maxwell Alexander Fraser)、Sister Bliss(Ayalah Bentovim)、Roro Armstrong(Rowland Constantine O’Malley Armstrong)からなるエレクトロニックバンド。ボーカルはアルゼンチン出身の女優・歌手のMia Maestro。

ダウンな曲調の中に、透明感あるボーカルとファニーなサウンドデザインが印象的。テンションをできるだけ低く保たたせるような、抑圧感のあるメロディが、不思議な引力を持って惹きつけてくる。

5.Aromabar – Simple Life

オーストリア出身、Roland Hackl、Karin StegerとHeiko Bandasch。シリーズでは7に登場している。 

低音を効かせたビートと、どこかノイジーなメロディが音が湧き出てくる源泉を感じさせる。『Winter Pagent』での絡みつくような感触が今作にも垣間見ることができ、それでいてポップな軽やかさが漂う。

6.Kid Stone ft. Lovely Laura – Rio

ともにイギリス出身、Steve Millerとサックス奏者Laura Fowles。

まさにブラジル・リオの情景を、そのまま音楽に落とし込んでいる。落ち着いたサンバやボサミュージックのリズムが、陽気さや清廉さを感じさせる。ボーカルからは密かな哀愁も感じられ、曲にのめり込むことなく、聴き疲れしない心地よさがある。名義が違うとはいえ、Steve Millerが放つ異色の作品。

7.Silent Way – The Cloud

イギリス出身、Matt Winn (Matt Wienevski)とMatt Cooper。CD1のD*Note名義でクレジット。バイオリンはAlice Hall。

抑えめで浮遊感のあるイントロ。ピアノやフルート、ゆったりとしたバイオリンの旋律が心地よいハーモニーを奏で、やがてビートのリズムが重ねられると、それは天上の音楽とも言うべきメロディを体と心の隅々にまで届けられるよう。

8.James Bright – No Better Feeling

イギリス出身、James Bright。エレクトロニカ、ダウンビート、ディープハウスをスタイルとする。
AfterlifeのSteven Millerとのプロジェクト、Luxとしても活躍している。

ノリの良いパーカッションに、スパニッシュギターの旋律とビートが重なり、洋上への航海を思わせるサウンドスケープを作り出している。期待に胸を膨らませながら木造船に乗り込み、潮風を浴びる。陽気な船員たちと共に見る景色。

9.No Logo – Vibrafone

イギリス出身、Pete GoodingとSteve Millerによるプロジェクト。Pete Goodingは10年間Cafe Mamboの専属DJを務めていた。

Afterlifeらしい海を感じさせながら、タイトルの鍵盤打楽器の一種である『Vibrafone』の音は表立つわけではなく、しかししっかりとその存在を示し、まるで海上の陽炎のようにじんわりと心に焼き付けてくる。悠久を思わせるシンセサイザー、そしてVibrafoneの合わさるハーモニーが全身を爽やかに包んでくれる。

10.Hannah Ild – Right Beside You (Afterlife Mix)

エストニア出身、Hanna Pruuli。故郷エストニアでは最優秀女性アーティスト賞やアルバム賞を獲得し、観光大使になったりもしている。ミックスはAfterlife 。本アルバムでは七面六臂の活躍をしている。

ささやくようなボーカルが、優しさや柔らかさをビートに乗せて遠くまで響き渡るよう。北欧らしい、少し涼やかなムードを持ちながら、上空まで突き抜ける青い透明感を感じさせる。

11.Hybrid – Blind Side

イギリスを拠点とするMike Truman、Chris HealingsとC.James(Charlotte Truman?)(2015年からはMike TrumanとCharlotte Trumanの夫婦デュオとなっている)。映画音楽やリミックスが非常に多い。ブレイクビート、プログレッシブハウス、トランスをスタイルとする。

静かなイントロに、厳かな雰囲気が漂う。シネマティックでどこかエスニックな雰囲気と、ビートレスなプログレッシブサウンドが特徴的。

12.Underworld – To Heal

イギリス出身、Rick SmithとKarl Hyde。エレクトロニック、テクノ分野で知らない人はいないだろう。Café del Marシリーズでも最初期作に収録されている。

イントロはノンビートで、荘厳で美しいシンセサイザーの旋律が終わりの始まりを表している。ともすれば周囲の雑音に埋もれてしまいそうな繊細な音だが、この曲が流れれば、曲と波音以外は何も耳に入らないだろう。こちらも2分ほどにまとめられた短いエンディングだが、強烈な印象と余韻を残し、清らかな終幕を下ろしている。

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