2005年発表の25周年記念版となる本作は、3枚組構成となっており、CD1には過去に参加したアーティストをメインに、CD2・CD3ではファン投票により人気の高かったアーティストがクレジットされている。非常に上質で多彩な楽曲構成となっており、これまでの25年間を彩ってきた音楽の軌跡を感じさせながらもCafé del Marはまた新たなシーズンへ転換したと見受けられる。
今回は3枚組なので、あまりにレビューが長くなるので、3分割しています。
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CD2
やや異色な作品が並ぶ。エスニックな曲調が多い中、後半に位置する13.14.15.の3曲は絶大な美しさ。12.で最高潮に持って行った後の、これぞチルアウトという真髄を味わえる。
1.Alessandro Boschi – Ojo de Vega
自身のHPにて「25周年記念新人アーティスト選抜に参加した」とある。14歳で国際音楽賞を受賞している実力のあるイタリア出身、Alessandro Boschi 。
荘厳な雰囲気を纏うイントロが、イビサの島の夜明けの青みを思わせる。非常にゆっくりと、夜がその力を失うように白けてゆく。どこかエスニックな響きが、朝の生まれを表現しているよう。
2.Tom Oliver – Free Your Mind
ドイツ出身、Tom Oliver Kirfel。マルチ奏者として、ピアノやキーボード、ボンゴを演奏する。
ダークな階調のピアノが奏でる、非常に美しくも悲哀を含んだクラシック曲。詩を読む男性というのは珍しい。次第にアップビートへと変化し、より詩的で深い情景を心象に刻んでくる。
3.Azioni Musicali – Volviendo al Sur
イタリア出身、Max BarolloとSandro Crippa。
強めのフルートのイントロから、サンバ的なパーカッションや鳥の鳴き声。そこからフラメンコチックに変化していく。イビサの音楽と言われても納得できるが、イタリア出身の彼らゆえにシチリア的な印象を受ける。陽気で楽しく、そして甘く切ない部分が共通しているからなのか。
4.Mic Max – Como el Viento
フランス出身のJean Pierre PlissonとMaxime Plissonの親子。La Cainaとして活動している。ボーカルは娘のMaxime PlissonとAymeric Robot。フランスのサックス奏者Nicolas Scheid。
フルートの響きを皮切りにゆるりとボサへと展開され、艶かしい歌声の、男女のデュエット。その歌声、歌い方が官能的で、映画の一幕のような印象を与える。てっきりとフランス語かと思ってたら、スペイン語のようだ。
5.Omaya – Novo
デンマーク出身のMaya Overbye Herulfとブルガリア出身のTzvetin Todorov。ボーカルはMaya Overbye Herulfが担当している。オランダロッテルダム音楽院で出会う。
民族的な音楽のアプローチをスタイルに、電子的な融合を果たしたボサラウンジといったようなもの。ギターやドラムのアコースティックな旋律に、バレアリックなメロディとMaya Overbye Herulfの瞑想的なボーカルが溶け合っている。飛び立つような浮遊感のある曲。
6.Melibea – Boheme
David Huertas BravoとPedro Sánchez ArellanoとCarlos de los Santos Sánchez Arellanoの3人。
やや硬質なシンセサイザーから、ジャジーでやや暗めに抑えられたフラメンコへと展開する。まるで小さな情熱の灯火がいくつも浮かんでは消えていくよう。ボヘミアンを意味する言葉のようだが、確かにその自由な感性と、芸術的でエスニックな装いを持つ曲。
7.Camiel – Take Me to This Place
ギター奏者でもあるCamiel V.によるソロプロジェクト。ジャズやソウル、ブラジル音楽をスタイルとする。ボーカルはClaudtte。
奏でられる音の冷ややかさが、非常に気持ちよく伝わる曲。哀愁あるブラジリアンリズムに、Claudtteのボーカルが一本の芯を通している。陽気さも持ち合わせながら、翳りのあるジャジーな側面を持ち合わせ、その両面性が互いを引き立て合っている。
8.Cold Valley – Another Day
Bernhard Weimerによるプロジェクト。
少し速めのテンポで奏でられるギターやジャジーな旋律が、どこか夜のハイウェイを思わせるクールな曲。疾走感のあるサウンドに、ブロンドの髪が灯りに照らされて風に靡く姿が想像できる。夜の大人のドライブ。口数は少なくとも、曲がムードを掻き立ててくれる。
9.Roberto Sol & Nera – Sensuality
ドイツ出身、画家としても活躍するRobert EischとNera & FelixのNera Wohlgemuthによる共作。
フレッシュなギターと速めのビートが軽快な調子で響き、Neraの低音の効いたボーカルが曲に落ち着きを与えている。朝にぴったりなボッサジャズのようなメロディと夜に相応しいNeraの歌声が体を駆け巡り、落ち着いて座っていられない気にさせる。
10.Lemongrass – Bee
ドイツ出身、Roland Vossnのプロジェクト。弟のDaniel Vossとレーベルを立ち上げ、Daniel Voss自身のプロジェクトの他、兄弟でもWeathertuneなどのプロジェクトがある。ボーカルはSkadi。
リズムが小気味良い、非常にダンサブルなドラムンベースが強く響く。どこかフレンチポップスを思わせるディスコテークな曲が展開され、Skadiのアンニュイなボーカルが程よく落ち着かせてくれる。
11.Glenn Maltman – Chillin’
イギリス出身、Glenn Maltman、プロデューサーにMike Boyes。
夜を意識するジャズ・ファンクに、サックスが気持ちよく響く。賑やかに洒落たバーでのライブ。上質なソファに掛けながら、目を離すことのできない音楽に酔いしれる。ところで、非常にウイスキーの種類みたいな名前。
12.DJ3 – Vertigo
スペインを拠点とするPako(Fco.Bautista)、Goyo(Gregorio Picornell)、JM(J.M.Manza)からなる。主にPakoがDJ、Goyoがギターやキーボード、JMはプロダクトに専念しているという。
ジャカジャンとスパニッシュギターが響くと、ハイペースなビートが駆けてくる、クールな曲。気分を上げていくにはちょうど良く、ハウステイストの強い曲。ギターやパーカッションといたオーガニックな音が前面に出ているので、クラビング過ぎず、しかし掻き鳴らされるギターによりしっかりと気持ちを熱くさせられる。CD2での最後の盛り上がりとして存在感を放っている。
13.Shiloh – The Gift
プロデュースはShiloh、D.Bowater、D.Montague。ボーカルはShilohが担当。
一線を画する美しさを持った曲。この13曲目からの3曲連続のなんと美しい曲だこと! これだけ綺麗すぎる曲を並べると陳腐なものになりがちだが、個性際立つすばらしい構成となっている。Shilohが担当するハスキーなボーカルが、曲の印象を落ち着かせ、メロディ、ハーモニー、リズム全てが完璧な仕上がりとなっている。
14.Alejandro de Pinedo – Sex on the Beach
スペイン出身のAlejandro Gil de Pinedo。同年発表のシリーズ12にもクレジットされている。
シンセサイザー、ピアノ、Sirenaの艶のあるボーカル。Café del Marの真髄を表す、サンセットのために存在しているような曲。ただし、子どもには刺激が強いので聴かせられない曲笑。星座をモチーフにした曲を発表しており、いくつかがCafé del Marにクレジットされている。
15.H. Garden feat. Joi – Gentle Rain
Hiroshi Ogawa(小川弘)とHisaki Kurosawa(黒沢永紀)によるプロジェクト、H.Garden。ボーカルを努めるのも日本人シンガーであるJoi(女性のような声だが、美声の男性である)。
日本人贔屓をするので断言してしまうが、Café del Mar史上5指に入る名曲である。美しいピアノの旋律、決して前に出ないが印象的なパーカッション、ギターの抒情的な調べ、そしてJoiの歌声。全てがまるで小雨が静かに降り注ぐかのような、繊細で抒情的な世界を創り出している。
初期の頃のCafé del Marではクレジットされなかったのではないだろうか、とすら思う、やはりどこか日本人的な危うい繊細さが垣間見える。しかし沢山の人にそのしなやかさや、たおやかさを選んでもらえたという勝手な嬉しさを感じる。
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