2000年発表。シリーズ7作目。自分が初めて手にしたCDがこれだった。チルアウトというジャンルに馴染みがなく、想像していたヒーリング系ミュージックとも違う音楽に戸惑ったものの、すぐにその魅力に取り憑かれた。
前作でJosé Padillaが去り、後任にDJ Bruno Lepetreが就く。もしかしたら生粋のファンには違和感があったかもしれないが、とてもそうは思えないほど非常にレベルの高いコンパイルとなっている。しっとりしとした落ち着いた曲が並ぶ。
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1.Lux – Northern Lights
Afterlifeとしても活躍するSteve MillerとJames Brightのプロジェクト。
ほんのりと冷ややかさがありながら、しかし優しく深いバイオリンの音色と重厚なキックが心地よい漂流感を与えてくれる。耳にこびりつくような曲ではないので、飽きがこない。1曲目からチルアウトの真髄を味わわせてくれる。極夜の中、輝くオーロラを眺めているよう。そこはトロムソかラップランドか・・・。
2.Afterlife – Breather 2000(Arithunda Mix)
そして引き続き、Steve MillerのプロジェクトであるAfterlife。ミックスはオーストラリア出身のArithundaことErik Lloyd Walkoff(’04 故)とMarius Hansen。
Steve Millerの作る音楽は実に特徴的で洗練されており、どれもが心に響いてくる。原曲はややスローで、冬の山奥に点在する暖炉の灯ったロッジを思わせる。Arithundaによるミックスでは大きく変化させてはいないが、水の音や自然の音を取り入れ、よりサンセットビーチを近く感じるものとなっている。
3.Moby – Whispering Wind
アメリカのミュージシャン、本名リチャード・メルヴィル・ホール。エレクトロニカやアンビエント、トリップホップ、オルタナティブロックなどをスタイルとしている。どのCDでも特徴的な坊主頭のイケオジ。厳格な菜食主義者で、動物愛護活動家、ドラッグを摂取しないことでも知られる。好きな映画監督は北野武。そしてなんと、曽々おじは『白鯨』を書いたハーマン・メルヴィルであり、彼のMobyはそのクジラの名前に因んでいるという。
スモーキーでダウンなビートに、囁くようなボーカルが絡み合い、繊細なムードが広がる。彼の作る音楽のジャンルは多岐に渡り、Mobyと言うジャンルがあるのではとさえ思わせられる。また多種ある彼の曲の中でも、シリーズ7にぴったり合う選曲をしたBrunoもさすがと言うべきか。
4.Deep & Wide – Easy Rider
北フランス出身でコンパイラーのBruno Lepretreと、Ibizarre名義で知られるデンマーク出身Lennart Krarupによるプロジェクト。
曲調はややダークで、サイケデリックな重い旋律が支配する曲調。Ibizarreの性格がやや強いか? 一聴すると地味なようだが、イビサの持つ深い文化を匂わせ、深淵な魅力を漂わせる曲。
5.Bush – Letting The Cables Sleep(The N.O.W. Remix)
Bushはイギリスのロックバンド。当時のメンバーはGavin Rossdale、Nigel Pulsford、Dave Parsons、Robin Goodridge。リミックスはNightmares On Wax。
原曲も甘美だが、それをトリップホップの雄N.O.Wがリミックス。決して華美にせず、原曲の良さをしっかりと活かし、よりムーディーに仕上げている。Gavinの英語がとても聞き取りやすく、そして感情豊かな歌が心身に沁み渡って来るようだ。
6.UKO – Sunbeams
オーストリア出身のJürgen Nussbaum & Martin Nussbaumの兄弟。ファンクやダブ、エレクトロニックソウルをスタイルとする。Gato Barbieriの『Gods And Astronaughts(Errare Humanum Est)』をサンプリング。本家も甘めのジャズ。
流れを壊さないまま、しっかりと重いリズムに「らららら~」と甘ったるくさえ感じる男性の歌声が意識をトリップさせ、その心地良さに、そのままビーチで昼寝してしまいそうになる。
7.Aromabar – Winter Pageant
オーストリア・ウィーンを拠点とするRoland Hackl、Karin Steger、Andreas Kinzlの3人組。彼らの音楽は「ポップクチュール」と表現され、永続的な美しさを追求する音楽を創り出すことを目指しているという。
可愛らしい女性のややメランコリックなボーカルと、トリップホップが絡み合いながら、どこか落ちていくような印象を受けるが、その落ち方はゆったりと身を任せて沈んでいくような感覚に陥る。
8.Bedrock – Beautiful Strange
イギリスのエレクトロニックダンスミュージックデュオ、John DigweedとNick Muirの2人組。John Digweedは2001年に世界No.1DJにも選ばれている。シリーズ6ではHumateの『3.2』をミックスしている。
アンビエントミックスとはいえ、ほぼプログレッシブハウスやエレクトロミュージックのままのエントリー。なのに、アルバム全体的にダウンテンポな曲が多いこのシリーズ7では違和感がない。後半の荘厳な展開は、陽が沈んだ海を見ながら聴きたくなる。
9.A New Funky Generation feat. Joy Rose – One More Try
シリーズ5、6と続いての出演のBreeze、Dee Rowe 、Gee Whelbourn、John Frost、Pete Yeadon、Richard Frost、Steve Bennett、Steve Bulterからなるジャズユニット。
シリーズ全体の流れがダウナーであったところに、さあ盛り上がろう! という、実にイビサらしいエネルギーと情熱が一気に開放される。だがシリーズ7の中でなら、これが最も明るい曲としてピークである笑。情熱的に歌い上げるところや、フラメンコを感じるギターやコーラスが感情を持ち上げてくれる。
10.Bent – Swollen
Bentはイギリス・ノッティンガムの2人組ユニット、Neil TollidayとSimon Mills。サンプリングスタイルを得意とする。この「Swollen」は俳優Michael Caineが「最もロマンチックなチルアウトソング」として評価している。また、ボーカルはグラミー賞にもノミネートされたZoë Johnstonであり、Bentの同郷である。
浮かび上がってきたところでまた沈ませるかのようなアンニュイな曲。Zoë Johnstonのクリスタルボイスとスモーキーなサウンドが、そのロマンチックさを織りなしている。
11.Underwolves – 68 Moves
イギリス出身、Adrian ShortmanとNed Kellyによるユニット。
エレクトロニカ、ドラムンベース、トリップホップが融合し、クラシカルなピアノの繊細なメロディが悲しみを帯びた深い感情を紡ぎ出している。その響きがまるで、夜の帳が降りるのと同時に火照った体をクールダウンさせて行くが、このまま終わるにはまだ何かが足りず、完全な安らぎを追い求めたくなる。
12.Oystein Sevag & Lakki Patey – Cahuita
ノルウェー出身のクラシック音楽家のØystein Sevågとイギリス系ノルウェー人でギタリストのLakki Patey。
寂のあるギターが哀愁を奏でる。クラシックな中にジャジーな雰囲気もあり、格調高くも居心地の良い上質な時間を享受できる。ひとり物思いに耽ったり、静かに読書をしながら聴きたい曲。このシリーズ7を映画に例えるなら、ストーリーラインはここで閉幕だろう。紆余曲折を経た人生のようで、振り返ればその全てが輝いていたのかもしれない。
13.Slow.Pulse feat.Cathy Battistessa – Riva
カナダ出身のArian Beheshti、Benj Hanx、T.Riegalの3人。Arian BeheshtiはSunchildの1人。
締めくくりに非常に美しい曲。6収録のMandalayと並ぶボーカルの名曲だろう。歌い手はイビサ在住の歌姫Cathy Battistessa。
閉幕した映画の、エンドロールに流れる最後の曲。Cathy Battistessaの存在感が先行する曲だが、ギターのメロディと、多彩なサウンドが効果的に絡まり合い、すべてが一体となってアルバムを締めくくっている。そして夕陽が地平線の彼方に沈んでいく瞬間、余韻がその場を優雅に包み込み、完璧な終幕を迎える。
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