Café del Mar 8 (Volumen Ocho)

音楽/Music

シリーズ8作目。コンパイラーがLuke Neville & Ben Cherrillに変更。これまでのコンパイルとは毛並みの違いを感じる収録されているアーティストには著名な名前が目立つが、その選曲はどれも洗練され、シリーズの一貫した美学が保たれていることがうかがえる。

*発売国などでかなり収録されている曲に違いがある。ここでのレビューは自分が持っているCDでのラインナップになっています。

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1.Goldfrapp – Utopia(New Ears Mix)

イギリス出身のAlison GoldfrappとWill Gregoryのデュオ。Alison Goldfrappの歌声は「官能的で優美、衝撃的だ」と称賛されている。

どこか寂しげな笛の音から始まり、ノイズが混じる。そこへAlison Goldfrappのアンニュイな雰囲気を纏ったソプラノボーカルが、ゆったりとしたシンセサイザーと絡み合い、独特な世界観を構築する。それはまるで、夢の中のまま沖合に浮かんでいる印象。出だしからどこへ流されるのか。美しくも不安を掻き立てられる序曲。

2.Thomas Newman – Any Other Name(original)

アメリカの映画音楽で知られる作曲家、Thomas Montgomery Newman。代表作は『ショーシャンクの空に』や『ザ・プレイヤー』など数々の名作が映画音楽史に残っているが、まさかの映画『アメリカン・ビューティー』の劇中曲がクレジットされた。

繊細で美しすぎるピアノが特徴ながら、正直、映画同様に不安にさせられる曲調。前曲から続く海の情景を引き継ぎ、さらに陸地から遠く離れた沖合に浮かんでいたところで目覚めたような気になる。

3.Afterlife – Sunrise(DJ Thunda & K-20 Allstars Remix)

Steve MillerによるAfterlife。リミックスはErik Lloyd WalkoffとMarius Hansen。

一転して、太陽の眩さや暑さまでも感じさせてくれる明るい曲調。Afterlifeの持つ硬質なサウンドをリミックスにより取り払い、希望に溢れたような印象を抱かせる。もしかしたら、パラソルの下で漂流する夢を見ていたのか。目覚めてみれば、そこには楽しく遊ぶ人々が広がる、いつもの賑やかなビーチの風景が戻っている。

4.Dido – Worthless(Original)

イギリスのシンガーソングライター、Dido Armstrong(本名Florian Cloud de Bounevialle)。兄はFaithlessのRollo Armstrong。

そして夜のジャズバーでの静かなセッションのような、ダークでスモーキーな雰囲気から始まり、中盤で登場するDidoのクリアでしっとりとした歌声が場内の空気を一変させる。Didoのボーカルが徐々に感情の深みを引き出していくのが印象的。

5.Mari Boine – Gula Gula(Chillminati Mix)

ノルウェー出身のMari Boineは、北ヨーロッパの先住民族であるサーミの伝統的なジョイク(joik:個人や場所や動物を表現する歌唱法)とロック、ジャズ、エレクトロニカを融合させた音楽スタイルを持ち、彼女の活動はサーミ人としての文化を誇りに、愛、人間の脆弱性、不正義、闘争、誇りと尊厳など深いテーマを歌詞に込めている。リミックスを担当したChillminatiは、ノルウェー出身のNicholas SillitoeとPer Martinsenのコンビ。

民族性のある曲がcafé del marに非常によく合っている。原曲のメッセージ性こそトーンダウンされているが、リミックスの重めのキックとダウンテンポなリズムによって、まるでマジックアワーから徐々に暗くなり、夜になっていく様を感じられる。

6.LUX – 100 Billion Stars(Original)

前出AfterlifeのプロデューサーであるSteve MillerとJames Brightによるプロジェクト。

バイオリンの音色が美しく響き渡り、夜空に輝く無数の星々を彷彿とさせる。Steve Millerらしい、やや硬質で冷たい音が堪能できる。眠らない街イビサでも、明かりを消せば1,000億の星が見えるのだろうか。それとも地上に輝く光のことを指しているのだろうか。星空とイビサの街のコントラストを描いたような幻想的な一曲に仕上がっている。

7.Mark de Clive-lowe – Day By Day(DJ Spinna Remix Edit)

アメリカを拠点とする日系ニュージーランド人。母親が日本人。ジャズ、エレクトロニカ、ファンク、パーカッションを用いたイギリスのブロークンビートミュージックをスタイルとする。リミックスはアメリカ・ブルックリン出身のDJ Spinna(Vincent Williams)。

軽快でキラキラとした曲調であり、自然と手拍子を打ちたくなるような心地よいグルーヴが流れ、ボーカルが乗るとそこはもう海辺のライブ会場になる。ビーチサイドにぴったりな開放的な一曲。

8.Ben Onono – Tatouage Bleu(Avec Chet)

イギリスとナイジェリアの血を引くミュージシャン、Benjamin Onono Arinze。ロンドンの王立音楽アカデミー奨学生においてピアニストとして訓練を積んだ。

艶かしいフランス語による歌とダウンビートが、寝そべって聴くにもちょうど良い。「青いタトゥー」は結ぶ相手を想う歌のようだが、その腕枕にいる相手はそこにいるのだろうか。情熱的な盛り上がりに反して、すごく儚い曲のように聴こえる。

9.Illmination – Cookie Raver(Original)

イギリス出身のNicholas Sillitoeとノルウェー出身のPer Martinsenによるプロジェクト。前出のChillminati名義でも活躍。レイブテクノ、スペースディスコなどをスタイルとする。

ビーチにいながら、ダンスミュージックの森に迷い込んだような感覚になる。ボンゴのような太鼓音や鳥の声のような響き、ビートが自然と体を動かせる。チルアウトには珍しく、体を動かしてノリたくなる曲。

10.Digby Jones – Pina Colada(Jazz mix)

イギリス出身、主にジャズやファンキー、ドラムンベースを主体としている。

ピアノジャズをベースに、キラキラと鳴り響く効果音が陶酔させ、聴く者を一瞬にしてトリップさせてくれる。夏にぴったりの一曲。時折入るスクラッチが時代を感じさせるが、それでも曲に良く合っている。異色作揃いの構成の中で、王道のチルアウト作品となっている。個人的に好きな曲。

11.Scripture – Apache(Original)

ベルギー出身のJean-Pierre Isaacによるソロプロジェクト。作詞・作曲家。’24年の2月に亡くなった。プラチナ、ダブルプラチナ、トリプルプラチナやゴールドアルバムの受賞歴もある。

ダウンなボサ、といった印象。ギターの切ない響きに耳を傾けていると、海の彼方に沈みゆく夕陽をずっと眺めていたい気持ちになる。決してポップなチルではなく、悲哀や希望や倦怠といった複雑な感情が絡み合っているように思える。

12.Lamb – Gabriel(Original)

シリーズ5からの再登場となるイギリス・マンチェスター出身のAndrew BarlowとLou Rhodesのデュオ。

この曲はおそらくCafé del Marシリーズで最も暗い曲ではないか。退廃的で絶望を感じる。そしてまた、愛への渇望を歌った声がより悲壮感を増している。美しく危険な一曲。シリーズ6の『Beautiful』、シリーズ7の『Riva』と並ぶ屈指のボーカルもの。

13.Armchair – Similan(Original)

非常に珍しい、タイ・バンコク出身のモンクット王工科大学ラカバン校の若者 4 名と卒業生によるプロジェクト。現在のメンバーはアヌソーン・マニーテット、チャトゥッタフォン・ルマコム、ピーラポン・リーラセタクン。当時タイ国内ではあまり知られていなかったボサノヴァのジャンルにより成功している。発売国によっては収録されていないが、正直、この曲が収録されていないアルバムはハズレではないか。

強い日差しの海の上に放り出された気分になる。しっかりとバレアリックな雰囲気を持ちながら、やや民族的な笛やパーカッションが彩る。非常にレベルの高い、美しい曲。

14.Celestial – Plum Crazy(Version)

香港出身、ダブスケープというサウンドをスタイルとするPeter Millwardによるもの。琴の演奏に日本人のEmiko Hisadaが参加している。こちらの曲も発売国により収録されていない。

ややダークな印象ながら、どこかダンサブルで音使いがアジア的に感じられる。そして尺八の音色は日本人には親和性が高い。シリーズ8のコンパイラーは生粋café del marレジデントDJとはまた視点が違い、それにより世界が広がっている。

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