2016年発表。コンパイラーはVíctor Gomez。バレアリックを離れ、メロウなディープ・ハウスに近いものとなった。モダンなチルといったアプローチ。それともこれは新しいバレアリックなのだろうか? シリーズ20、21のジャケットデザインと似ていながら、色合いが濃色へ反転しているのところに何かしらのメッセージ性を感じる。また、これほどに傾向の似た曲が集められているのも珍しい。全体的にややダークなムードが漂い、女性ボーカルものが多い特徴。似通っていると言えばそうだが、しっかりと一貫性のある印象である。
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CD1
1.DK – Evening Shadows
フランス出身、ベトナム系の背景を持つDang-Khoa Chau。ブレイクビーツ、ローファイ、アンビエントをスタイルとする。
序幕の曲から、これまでのシリーズとの指向性の違いを感じさせられる。メランコリックな音色に乗せられて、緩やかな海中へと誘われていく。辺りには黄金色に光る泡が無数に漂い、暗闇と煌めきが同時に存在する幻想的な世界への入り口を開いている。
2.Blooms – Fall
アイルランド出身、Louise Cunnaneによるプロジェクト。ドリームポップ、アンビエントポップをスタイルとする。’14年に活動開始。『Fall』発表は’15年で、初期の成功作となった。
ダークなムードに、透明感のあるボーカル。低音がずしりと響き、その音の重力に引き落とされているような感覚。その反面、ポップにも感じるボーカルに優しく包み込まれ、そのコントラストの交錯が心地よい。
3.Ash Walker – Bongo Legs
イギリス出身、Ash Walker。ジャズ、ダブ、ソウルをスタイルとする。「アンチ・サウンドエンジニア」というアプローチにより、音の余白・ヴィンテージ質感・アナログ感を重視している。
ダブ強めのライブ空間。ソファベッドに寝そべってスモーキーなウイスキーを嗜む、上質なひとときを想起させる。
4.D-Pulse – Velocity Of Love (Hot Toddy Mix)
ロシア出身、Anton Kochnev、Klim Sukhanov、Pavel Shoutov、Semyon Perevoschikovからなる4人組。学生時代に結成され、生の演奏を取り入れたライブダンスミュージックとして人気を博している。ミックスはイギリス出身のChristopher Todd。
原曲はロマンティックなディスコハウス感がありテンポも割とゆっくりだが、ミックスにより磨かれた飲み口をした蒸留酒のように、まろやかでスムーズな口当たりとなった。ビートやキックが心地よく、体に感じるそのリズムが明るい気分にさせてくれる。
5.Double Yellow – Feed You (Ambient Jazz Ensemble Rework)
イギリス出身のDavid LilleyとボーカルのSuzanne Hughesによるプロジェクト。ダウンテンポ・ファンクやソウルをスタイルとする。編曲はColin BaldryによるAmbient Jazz Ensembleというプロジェクト。シネマティックジャズやヌージャスをスタイルとする。
ディープハウスにファンクや、ややジャズ的な要素の絡む曲調。ビターなテイストを織り交ぜながら、夜の情景や居心地のいいラウンジを想起させる。
6.Slowly Rolling Camera – Slowly Rolling Camera
イギリス出身、キーボード奏者のDave Stapleton、パーカッションのElliot Bennett、プロデューサーDeri Roberts、ボーカル・作詞担当のDionne Bennettからなるジャズバンド。ジャズとトリップホップを組み合わせたスタイルで、The Cinematic OrchestraやBonoboの影響を受けているという。’18年にDionne Bennettが脱退している。
ジャジーで低音を効かせたドラムやボーカルが気分を落ち着けてくれる。途中のサックスが刺激的なスパイスとなり、胸に響く。聴いていると、短くもひとつの映画を見終えたような充足感を駆り立てる不思議な曲。体の熱を奪いもし、同時に与えもする。
7.All India Radio – Sunburst
オーストラリア出身、Martin Kennedy。’13年発表の『The Silent Space』から。トリップホップやアンビエントをスタイルとする。’97年から活動しており、テレビや映画音楽に携わる。
非常に落ち着いた足取りの曲。南半球の太陽にさらされ、陽炎に歪む砂地にたたずみ、喉の渇きを覚えさせるよう。
8.Kasseo – In Your Eyes(feat.Cordelia O’Driscoll)
イギリス出身、Seth Parsonによるプロジェクト。エレクトロニカ、ダウンテンポをスタイルとする。ボーカルは同じくイギリス出身、Cordelia O’Driscoll。オルタナティヴソウルなどをスタイルとする。その歌声は「ベルベットのように柔らかくて豊かな質感」と評される。
緩やかなポップスを感じさせるボーカル。エコーの効いた歌声とリズム、多彩なサウンドエフェクトが耳からすんなりと体に染み込み、微細な香りを感じさせる。
9.Yann Dulché – Faith(feat.Dinia)
フランス出身、ピアニストのYann Dulché。音楽大学でクラシックなどを学んだ。初期はアンビエント、’15年ごろからフレンチタッチのエレクトロやディープハウススタイルとなっている。ボーカルはDinia。
息を呑むような静かな空間に、じわりと滲み渡るボーカル。重く響くドラムが鼓動を引き起こし、決して感覚を眠らせない。だが夕暮れなのか夜明けなのかもわからない、前後不覚に酔ってしまったようでもある。
10.Kinkajous – Vinam (CHPLN Remix)(feat.Mariama)
イギリス出身、ドラマーのBenoît Parmentierとサックス・クラリネット奏者のAdrien Cau。シネマティック・ジャズやエレクトロニカをスタイルとする。ボーカルはドイツ系シエラレオネ人のMariama Jalloh。リミックスはイギリス出身で幼なじみ二人組で活躍するDali BorとPippo VariからなるCHPLN。
Mariama Jallohのボーカルが静かに、だが力強くその存在感を確かに思わせる。どこか可愛らしい旋律と怪しげなサックスが、神秘性を纏ったベールの向こうに見えるシルエットを魅惑的に映し出しているかのよう。
11.Lybes – Darkest Hour
イギリス出身、Francesca Bergamiによるプロジェクト。インディーダークポップ、アンビエントをスタイルとする。父親がイタリア人、母親がオーストラリア人で、幼少期はさまざまな国で過ごし、多様な文化・音楽に触れていた。音楽の仕事に就く前には、心理学を修めていたので精神衛生支援の仕事についていたが、「自分の中の暗い時間を音楽として表現したい」という思いで音楽活動を開始している。
Vol.22の収録楽曲の多くに共通するダークな曲調、女性のボーカルといったその源流は似ていながら、しかしその流れる先は同じではない。この曲のアルコール度数は高く、体に染み入るにつれ体温が上がるのを感じる。
12.Go Go Penguin – Murmuration
イギリス出身、Chris Illingworth、Nick Blacka、Rob Turnerによるジャズ・フュージョンバンド。’14年発表、バークレイズ・マーキュリー賞ノミネートの2ndアルバム『v2.0』より。’21年にドラマーのRob Turnerは脱退し、Jon Scottがドラムを担当している。
ドラムの刻むリズムが非常に心地よい。屋内で聴くほうがより深く没入できそうな、コンサートのような体感がある。雑音に消されてしまう音がああると壊れそうな、繊細な完成度にシンフォニックな美しさがある。
13.Hecq – Night Falls
ドイツ出身、Ben Lukas Boysen。俳優やオペラ歌手といった家庭で育ち、7歳からピアノやクラシックギターを学ぶ。アンビエント、ダブステップなどのスタイル。
ビートレスな音響の演出が、プロジェクションマッピングでの星の瞬きさえも描き出しているかのよう。そしてこれからステージが始まるような、期待感を抑えられない夢幻的な世界に誘われる。
14.Luke Howard – The Ends
オーストラリア出身、ピアニストのLuke Howard。ヴィクトリア芸術大学でジャズなどを学んだ。現代クラシック、アンビエント、電子音楽をスタイルとし、映画や舞台、バレエのスコアも手がける。自身の音楽を「フィルムのない映画のための音楽(music for a film without a film)」と表現している。
とても優しいタッチのピアノ、弦楽器の美しさをもつ曲。そのタイトルのように、行き着いた先にある結末は、そこに立つ者それぞれのストーリーがあるのだろう。最後の一歩で辿り着いた瞬間の音楽。それは何かを得て来たのか、もしかしたら何かを失った物語なのかもしれない。
CD2
1.Wilson Tanner – Sun Room
オーストラリア出身、Andrew Richard WilsonとJohn Tannerによるデュオ。アンビエント、ニューエイジをスタイルとする。ワイン醸造所や古い邸宅など特異なロケーションで録音を行うことでも知られる。環境音を取り込む制作姿勢が特徴で、彼らの作品には“場所の空気”そのものが封じ込められている。
薄明の時間に目を覚ますような感覚。夢現でいると、開け放たれた窓から差し込む、光の筋。柔らかな温度を感じながら、体をベッドに預ける贅沢。
2.Terrane – Carve Our Fate(feat.Thomas Prime)
アメリカ出身、Chuck JohnsonとDewey Mahoodによるギターユニット(と思われる)。イギリス出身のThomas Primeがおそらく編曲に携わっている。Thomas Primeは前作Vol.21でクレジットされており、Nujabesトリビュート作品にも参加したことがある。
緩やかで温かみのある曲は、よく晴れた日の水温の高い海を思わせる。その波間にフロートマットを浮かべ、日差しを浴びながら漂う幸福感。
3.Doc Daneeka,Abigail Wyles – Tobyjug
イギリス出身のMial Watkinsと歌手のAbigail Wyles。Doc Daneekaの名前はジョーゼフ・ヘラーの小説『Catch-22』の登場人物が由来。この曲はMial WatkinsとAbigail Wylesの友情と制作仲間としての始まりとされている。ハウス、ガラージを主なスタイルとしている。
ゆっくりと響く重低音と囁くような歌声が、その心地よい速度で心を落ち着けさせてくれる。陽が沈んだ、トワイライトにちょうど良さそうな寂寥感。
4.Furns – Fortress
デンマーク出身、Monika FaludiとMathias Dahl Andreasenによるプロジェクト。北欧ソウル、インディーポップをスタイルとする。
心地いいビート、ポップなメロディ、北欧らしい寒冷さの中にどこか温かみのある印象。Monika Faludiの少し訛ったような歌声が前面に響き、ポップスらしさが強調されているが、不思議とこのアルバムには馴染んでいる。
5.Cathy Battistessa – Two Eye’s
イギリス出身、Café del Marではもはや大御所歌姫であるCathy Battistessa。
シリーズ5から参加してきた彼女がいると、とても安心する。冷たげな印象の音使いに、歳と経験を重ねた深みのある声が乗る。それは歌なのだが、祝詞のようでもある。ポップではなく、だが心地よい泡に包まれる感覚。
6.Hazy J – Silver
オーストラリア出身、Hamish Stewartによるプロジェクト。ダブ、ルード、アンビエントをスタイルとする。メジャーシーンでの活動は少ない。
このアルバムにあっては、どこかイビサをよく表す雰囲気をもつ曲に感じる。楽しい音使いながら、切なさを感じさせ、海だけでなく街や島の持つ歴史というものを映し出すようなイメージ。時折漂う、かつての過去を思い起こさせる香りにハッとさせられる。
7.James Bright – Low
イギリス出身、シリーズにおいて何度もクレジットされているJames Bright。Steve MillerとのプロジェクトでのLuxとしても活躍している。
Café del Marの常連であり、バレアリックをまだまだ体現してくれている。印象強い音楽ではなく、自然に周囲を取り巻く音楽。ゆえに自然と浜辺へと連れ出してくれる。
8.Stratus – Oxwich
イギリス出身、Martin JenkinsとMat Anthonyによるプロジェクト。ディープハウス、メロディックハウスをスタイルとする。Oxwich Bayという金色の砂浜が数マイル続く穏やかなビーチがある。
単にOxwichというとそこにある村を指すらしいが、のどかな田舎の風景や旧跡があり、その空気感を容易く想像させてくれる旋律。牧歌的で心落ち着けられる。
9.Helios – Every Passing Hour
アメリカ出身、Keith Kenniffのソロプロジェクト。映画や広告音楽を手がける。メロディックアンビエントなどをスタイルとする。妻であるHollie Kenniffも自身の名義で音楽活動も行なっており、夫婦共同でのMint Julep名義もある。
静かで豊かな雲上の世界を思わせ、幸福な音楽に包まれる感覚。それは華美ではないが、紛れもない祝福である。
10.Neeco Delaf – Anthropology
フランス出身、Neeco Delaf。ダウンテンポ、アンビエントをスタイルとする。ロンドンに渡ったのち、スウェーデン人の恋人を追ってスウェーデンへ移住したという話も。
ダンサブルで少し早めのビートが、ダンスホールへとワープさせる。心を持ち上げながら、しかし必要以上には持ち上げない曲調が心地よい。思わずそのリズムに頭を揺らしてノってしまう。
11.FM-84 – Goodbye(feat.Clive Farrington)
スコットランド出身、Col Bennett。シンセポップ、シンセウェーブ、レトロニューウェーブをスタイルとし、80年代シンセサウンドをリスペクトしたモダン解釈したサウンドメイキングをしている。ボーカルはイギリス出身、When in Romeとしても活躍するClive Farrington。
アルバムの中では個性強め。やや掠れたような歌声やキラキラ感の曲調が、かなり狙った感のあるポップさだが、80年代的サウンドの響きが妙味さを醸している。
12.Pensées – Intro
ロシア出身、Sergey Purdiy(Прудий Сергей)とVlad Sidorkinによるプロジェクト。フューチャーガレージ、ダウンテンポ、トリップホップをスタイルとする。ネット配信などを中心とした活動をしている。シリーズ21にも登場している。
ディープで掴みどころのない、どこかサウンドエフェクトのような流れのある曲調。自身のアルバム『4.35』のイントロ曲だが、このアルバムの流れにあって繋ぎの役目を持ちながら、まだまだ期待感を高めてくれる。
13.Owsey – To The Child Drifting Out At Sea
北アイルランド出身、Owen Ferguson。アンビエント、アイリッシュフォークをスタイルとし、リミックスワークでよく知られる。
アイルランドの凍える冬の夜のようなイメージを抱かせるが、そのピアノの音色には北欧ルーツ特有の温かみもある。クライマックスを迎えた輝かしい舞台が終幕するような、寂しさを感じさせる。
14.Gidge – Norrland
スウェーデン出身、Jonatan NilssonとLudvig Stoltermanによるプロジェクト。16歳で出会い、結成している。アンビエント、エレクトロニックをスタイルとし、フィールドでの録音もしている。
クジラかイルカの鳴き声を思わせるホーンが、大海原を見渡している気にもさせる。そしてエスニックなビートとパーカッションが未到の地を前にするような、ワクワクとさせる躍動感を与えてくる。間奏は静かに、海中を揺蕩うような印象。しかしそのエンディングは切ないものなのか・・・。

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