The Sound of Café del Mar

音楽/Music

2017年発表。コンパイラーはToni Simonen。同年にCafé del Mar Vol.23とTerrace Mix 7も手がけており、精力的な一年だったことがわかる。本作はCDでのリリースはなく、デジタル配信のみの作品となっている。

Café del Marはチルアウトを主軸としているが、そこに収められる音楽はジャンルに縛られない。本作はハウス・テクノ・アンビエントを源流に持つ楽曲を集めながら、Toni自身の耳でCafé del Marの定義を更新しようとしている一枚だ。

1.Shook – Tidal

オランダ出身、Jasper Wijnands(ヤスパー・ワイナンズ)によるソロプロジェクト。70年代・80年代初頭のシンセポップ、ディスコ、ファンク、アニメ、未来的なサウンドトラックをルーツに持つ。Ellie GoudingやJamiroquaiのリミックスを手がけたこともある。「Tidal」は、病床からの回復の中で生まれた曲。

幕開けに相応しく、夜明けを感じさせる一曲。Café del Marの名前を冠していながら、チルしようとする脳を徐々に覚醒させるビート。爽やかな朝に心が動き出す。

2.Pig & Dan feat. Malcolm Duncan – Freefall

イギリス出身のDan Duncanと、スペインにルーツのあるIgor Tchkotoua(イゴール・チコトゥア)によるデュオ。1999年、マヨルカ行きのフライトで偶然隣り合わせになったことが出会い。当時、互いにすでに音楽シーンで活躍しており、DanはMinistry of Soundでレジデントを務めており、Igorは地下のシーンでTropic 39名義でプロデューサーとして頭角を現していた。2016年にはBeatportのテクノ・総合チャートで1位を獲得した「Growler」が大ヒットしている。

テクノ畑であるが、こちらはその血脈を感じさせながらもしっとりとジャジーな雰囲気を漂わせる。そして夕陽を感じさせるバレアリック的な浮遊感が、心地よい自由落下を描く。

3.Arms and Sleepers – Miami

アメリカ出身のMax LewisとMirza Ramic(ミルザ・ラミッチ)によるアンビエント/トリップホップデュオ。2006年ボストンで結成。バンド名はボスニア出身のRamicのボスニア紛争に対する視点を反映しており、武器を持つ者と、それを止めようとしなかった者を指している。Ramicは別のインタビューで「『It’s Easy』という曲は、1993年のボスニア紛争で亡くなった父のことを思って書いた。戦争がなければ、父を含む多くの命が、こんなにも簡単に救われたはずだった」と語っている。Max Lewisは2017年に脱退し、以降はRamic一人によるプロジェクトとして継続している。

強めのビートを刻みつつ、軽やかな音使い。夜の景色、ネオンサイン、煌びやかなホールを思わせながら、どこか人のまばらな空白を感じさせる。

4.Ian Pooley – What’s Your Number

ドイツ出身、本名Ian Christopher Pinnekamp。初めてのマシンを手に入れてすぐにハウスとテクノの制作を開始した。16歳から友人Thomas Gerlach(DJ Tonka)とともにプロダクションキャリアを開始している。1996年のポルトガル・ポルトでのギグがきっかけとなり、ボッサノバやラテンリズムへの強い関心が生まれ、以降それをハウスに取り込んでいった。1997年にはDaft Punkの「Burnin’」をリミックス。Daft Punk側も彼の「Chord Memory」をリミックスするという相互の縁がある。

ディープハウスが染め上げる都会的なムード。車窓から眺める光の筋。静かに心を持ち上げるチルが大人の時間を紡ぐ。

5.Andras – Gold Coast (Surfer’s Paradise Mix)

オーストラリア出身のDJ・ミュージシャン、Andrew Wilson。Wilson Tanner、Art Wilson、Andras & Oscarなど複数のエイリアスを使い分け、NTSラジオのレジデントとして活動している。「CajmereやPal Joeyなど90年代のハウスから微妙なヒントを得て、DIY感覚で録音したルーズなハウス」と評されている。

ダウンなハウスに、碧い海と寄せる白波の輝きが重なる。煌びやかな光を遮るグリーンルームは、渦巻く波の内側にできる、ほんの一瞬の静かな空間。

6.Yosi Horikawa – Bubbles

大阪出身のミュージシャン・サウンドデザイナー。楽器を持たない頃から、身の回りのものを使って音を出して作曲していたという。環境音を取り入れるアンビエントを、フィールドレコーディングするというスタイルを持つ。18歳の時に東京に移り、大学で建築を学んだ。現在は建築音響の仕事も手がけている。本作はピンポン球やボールの跳ねる音を核として構築されている。

演奏された曲というよりも、精密に構築されたサウンドアート。実際に周囲を跳ねるボールの音がアトラクションとなる、聴覚のミュージアム。ただ・・・このアルバムにおいては、あまりに周囲の曲から浮いている気がする。

7.Steve McGrath – From Within

アイルランド出身のDJ・プロデューサーで、20年以上アイルランドのシーンで活動しながらも、経歴の詳細は公開情報が限られており、謎めいた存在。

夜の街中に戻り、ビルの屋上から眺める景色に一息つく。プログレの高揚とダウンテンポの作る落ち着きが混じり合う。後半への幕間。

8.36 – Room 2

イギリス出身のDennis Huddlestonによるアンビエント・エクスペリメンタルプロジェクト。「36」の読みは「three-six」。

真夜中に長いドライブウェイを走る。車通りは少なく、静かにアクセルを踏み込むが、決してスピード狂ではない。流れ過ぎ去る光の瞬きを味わうような、都市型のアンビエントに気持ちが整っていく。

9.The Egg – The Sun Is Flat

イギリス出身のバンド。Ned Scott(ボーカル・キーボード)、Maff Scott(ドラムス・プログラミング)を中心に、Ben Cullum、Paul Marshall、Drew Thane、Matt White、Dave Motionらが在籍。Pink Floyd、Funkadelic、DFA Records、New Order、Underworldに影響を受けた。

テクノ色の強いサウンドが、どちらかといえば景色よりも感覚を刺激する。光とノイズのサブリミナル。どんなレイブ空間にあっても映えそうな、陶酔性の強い一曲。

10.Moon Boots – Red Sky (Kahwe Remix)

アメリカ出身、本名Peter Dougherty。プリンストン大学で電気工学を学ぼうとしたが専攻を変更し、最終的に作曲・音楽理論・ジャズを学ぶ。

リミックスを担当したKahweはJoe Cowieによるプロジェクト。プログレッシブ、ディープハウスをスタイルとする。

ミックスされていない原曲では宇宙的と評されることが多く、大気圏を抜けているような印象のあるグルーヴ。今作のKahweのリミックスでは、マジックアワーの浜辺で楽しむかのような、地に足をつけたムードに仕上がっている。素足に感じる、熱を残した砂浜の余韻。暗くなるほどに心が持ち上がっていく。

11.Purple Disco Machine – Soul So Sweet

ドイツ出身、本名Tino Piontek。1980年生まれ、東ドイツ時代に育ち、1989年のベルリンの壁崩壊まで共産主義体制の下で生活した。父親がレコードコレクターで、70〜80年代のファンクミュージックを通じて音楽に目覚めた。10歳のとき、家族で初めて西ドイツの充実したレコード店を訪れた体験が忘れられないと語っている。東ドイツでは政治的な歌詞がないディスコが検閲を免れ、ラジオで流れていたという。15歳の膝のケガでサッカーの夢が絶たれたあと、デッキとキーボードとドラムマシンを購入した。ステージ名「Purple Disco Machine」は、ファンクの英雄Princeと、Gloria EstefanのMiami Sound Machineへのオマージュだという。2013年の「My House」でBeatportトップに立ち、2020年の「Hypnotized」(Sophie and the Giants feat.)でイタリアのシングルチャート2位・ダブルプラチナを獲得。現在も世界トップクラスのディスコ・ハウスプロデューサーとして活躍する。

完全にハウス・ディスコ寄りのナンバー。どこぞのクラブへ迷い込んだような熱気があり、身体が自然に跳ね始める。ダンスアイランドとしてのIbiza、その享楽的な側面が一気に前景化する。汗が滲み、空気まで熱を帯びていくよう。

12.Vince Watson – Moments in Time (VW20 Mix)

スコットランド・グラスゴー出身のプロデューサー・DJ・ライブパフォーマー。4歳のとき、フォークミュージシャンの父親とともにはじめてステージに立った。グラスゴーの王立芸術・音楽・演劇アカデミーでピアノを学びながら、Herbie Hancock、Derrick May、Jean Michel Jarreらからの影響を受けて音楽を深めた。「(VW20 Mix)」と添えられているのは、制作時Vince Watson活動20周年を記念したミックスであることを示している。

踊り疲れ、外気を吸いにクラブを抜け出す。体を休めるラウンジへ移り、ソファにもたれてスモーキーな空気に浸る。冷め切らない興奮に染み入る曲が、感情や思考を加速させていく。

13.Fort Romeau – Secrets & Lies

イギリス出身、本名Michael Greene。ブライトンで音楽と視覚芸術を学んだ後、ロンドンに移りエレクトロポップデュオLa Rouxのツアーバンドに参加したという異色の経歴を持つ。ハウス、クラウトロック、アンビエント、ディスコ、テクノを融合した独自のスタイル。

再び、クラブへ。穏やかなハウスグルーヴに「秘密と嘘」という甘美な響きを添えられると、その味わいが際立つ。少し甘めのカシスにほろ酔いにされ、だんだんと気分が浮かれてくる。9分に及ぶ長い酩酊。

14.B.Traits – North Shore

カナダ出身、本名Brianna Price。「ヒックとヒッピーしかいない」(=「都会的なクラブシーンとは無縁の、辺鄙な場所で育った」)と表現する田舎町で育ち、深夜のMuchMusic(カナダのMTV)でThe ProdigyやGoldieを初めて聴いて衝撃を受けた。ドラッグ教育や夜間文化の保護についても積極的に発言する活動家でもある。

ややアンダーグラウンドな空気を纏いながら、ブレイクビーツ的な展開とメロディックな高揚が交差する。Orbitalにも通じる叙情的なテクノ感。海辺というよりも、夜更けの都市高速を滑走していくような感覚が強い。

15.Amateur Dance – Love System

オーストラリア出身のプロデューサーJoseph Cooksonによるプロジェクト。同じAnjunadeep所属のMoon Bootsと並んでこのコンピレーションに収録されているのは偶然ではなく、レーベルのカラーがここに凝縮されているともいえる。

まさにシステムの起動。無機質なビートサウンドに、やがてブレイクが訪れると閉じていた景色が一気に開けていく。踊り続けているうちに、気づけば空が白み始めている。刻むビートが運ぶ夜明け。

16.Miro – Paradise (Farmatronic Creeping Mix)

デンマーク出身のMads ArpとSteen Thøttrupによるデュオ。1990年から活動し、トランス、プログレッシブハウス、チルアウトをスタイルとする。Café del Marには10回以上収録された常連であり、「Emotions of Paradise」「The One I Run To」「By Your Side」などの曲でも知られる。

ミックスはオーストラリア出身のAndrew Philip Pageとフランス出身のGaëtan SchurrerによるFarmatronic。

実質のエンディングを飾る、Café del Marのシリーズでもお馴染みのMiro。今作はEnergy 52やNalin & Kaneを彷彿とさせるトランスミュージックな原曲を、Farmatronicによって温かみのあるプログレッシブ・チルへ変換されている。長い夜を抜けたあとの眩しい朝陽が、肌を照らし出す。

17.Toni Simonen – Continuous DJ Mix

フィンランド出身のToni Simonen。Café del Marの専任コンパイラーとして、VolumesシリーズやTerrace Mix、Chillout Mixなど多数の作品を担当してきた。本アルバムの「最後の一曲」として収められたこのDJ Mixは、1曲目から16曲目までの流れを約22分でつなぐ役割を担っており、アルバム全体を俯瞰するコンダクターとしての彼の仕事ぶりが凝縮されている。

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