2017年発表。コンパイラーがToni Simonenに戻った。実に彼らしいコンパイルの仕方だなあと思わせる。前作Víctor Gomezがコンパイラーを務めたVol.22は一貫性のある構成だったが、今作はToniの持つバレアリックさがあり、ジャンルを越えながらも不思議と一つの空気感へと収束している。
CD1
1.Télépopmusik – Breathe (Kartell Slow Remix)
フランス出身、Fabrice DumontとStephan Haeri、Christophe Hetierからなるトリオ。ハウス、ダウンテンポ、エレクトロニカをスタイルとする。ゲストボーカルにスコットランド出身のAngela McCluskeyを迎えている。原曲は’02に発表され、’04年のグラミー賞ダンスレコーディング賞にノミネートされたが、カイリー・ミノーグに敗れた。また、MVの監督はJordan Scottで、有名な映画監督であるRidley Scottの娘である。
リミックスのKartellは、フランス出身のThomas Thierryによるプロジェクト。彼は’25年3月に亡くなっており、死因は公表されていない。
そもそも原曲からして素晴らしく、リミックスでは原曲にあったエレクトロポップなサウンド部分を削り取った率直な仕上がり。冒頭にあってとても印象的。リミックスとはいえ発表から15年の時を経てもなお、色褪せない名曲。
2.Vincenzo – Today
ドイツ出身のChristian Vincenzo Kruse。兄弟も音楽活動をしている模様。イタリア系の父親もミュージシャン。エレクトロ、ハウスをスタイルとする。
アナログプレイヤーのチューナーを合わせて、ソファに腰掛けると夕焼けの温度をまとった風が吹き抜ける。天井のファンを見つめて一息つくと、時間がゆっくりになる感覚。贅沢とは、1秒をちゃんと感じることなのか。
3.Lord Echo – In Your Life
ニュージーランド出身、Michael August。レゲエ、ダブ、ファンク、ソウルをスタイルとする。アナログ感のあるグルーヴィーサウンドと称される。バンドではギタリストとしても活躍している。日本でもBlue Noteに出演していたりと人気が高い。
その囁きは抗えない誘惑。意識を吸い込まれ、体中の熱を奪われ、重い殻を脱ぎ捨て、ただ中空に浮かぶような感覚。
4.Arms And Sleepers – Pan Am
アメリカ出身、Mizra RamicとMax Lewisによるプロジェクト。アンビエント、トリップホップをスタイルとする。バンド名はボスニア生まれのRamicによる、ボスニア紛争に対して武器を持つ者とそれを止めない者を意図しているという。’17年のこの年にMax Lewisは脱退している。
どこか牧歌的な雰囲気を漂わせ、飄々としたトリップホップが絶妙に調和し、流れにアクセントをもたらしている。
5.Kraak & Smaak feat.Parcels- Stumble(Blue Motel remix)
オランダ出身、Oscar de JongとMark Kneppers、Wim Plugによるプロジェクト。ファンク、ソウル、ディスコをスタイルとする。Jamiroquai、Kruder & Dorfmeister、Moby、Aretha Franklin、Chromatics、Röyksopp等のリミックスも手がける。
Parcelsはオーストラリア出身のバンドであり、メンバーはLouie Swain、Patrick Hetherington、Noah Hill、Anatole Serett、Jules Hendrix Crommelinの5人組。2014年に高校卒業と同時にベルリンへ移住し、フリードリヒスハインの1ルームアパートで共同生活しながら活動を開始した。
リミックスを担当するBlue Motelは、フランス出身、Julien NolanとThomas Toccafondi。ディスコ、ファンク、ハウス、ニューウェーブをまたぐマルチジャンルなプロデュースが特徴的。
原曲のほうがよりジャジーでライブ感があり、美しいピアノの旋律と重たいキックが深い余韻を残している。こちらのリミックスでは大きく崩さず、トリップ感あるエフェクトと滑らかなリズムで、身体を自然と揺らしていく。
6.Blue States – Vision Trail
イギリス出身、Andy Dragazisによるプロジェクト。エレクトロニカ、ダウンテンポをスタイルとする。父はギリシャ人ミュージシャンで、かつてVangelisと60年代に共演した経歴を持つ。そのためDragazisはギリシャと英国の二重のルーツを持ち、ギリシャ音楽も作風への影響として語っている。
希望に満ち溢れた、晴れやかな空の下で聴きたい曲。異国の地で体の芯から非日常を楽しむかのように、ただ景色を眺めているだけで幸福になれる、そんな瞬間のための曲。
7.Flo Morrissey & Matthew E.White – Everybody Loves the Sunshine
イギリス出身、シンガーソングライターのFlorence Elizabeth J.Clementine(旧姓Morrissey)とアメリカ出身のソングライターMatthew E.White。Flo Morrisseyはフォークをスタイルとし、Matthew E.White はインディーポップやオルタナティブポップをスタイルとする。原曲はRoy Edward Ayers Jr.の『Everybody Loves the Sunshine』。
ポップスのカバーであり、アレンジも控えめで王道的。ゆえに、このアルバムにおいては飛び道具でもある、矛盾のような違和感に批判すら出そうなクレジット。だが、これこそがchill outの懐の深さであり、Toniの理念のように感じる。
8.Bibio – Petals
イギリス出身、Stephen James Wilkinsonによるプロジェクト。フォークトロニカ、アンビエント、インディーポップ、エレクトロニカ、ソウル、ファンクをスタイルとする。アナログ感のあるlo-fiサウンドが特徴で、ギターを中心に据えたマルチ奏者。ミドルセックス大学でソニックアーツを学ぶ。
どこか時代を感じさせる祈りのようなボーカルと、歪んだ電子音とのミスマッチが、ギターの音色を交えて調和している。色褪せた写真を見つめ、懐古するような切なさ。だがそこに写るのは、確かにあった幸せ。
9.Zero 7 – Last Light
イギリス出身、Henry BinnsとSam Hardakerによるデュオ。ダウンテンポ、トリップホップ、アシッドジャズをスタイルとする。もともとロンドンのRAKスタジオでサウンドエンジニアとして働き、Pet Shop Boys、Robert Plantらの録音に携わる。1997年にRadioheadのリミックスをきっかけにZero 7として活動開始。
星空の降る美しい夜に、静かに眠りにつくための曲。ボーカルの雰囲気が前曲にも似ており、しっかりと流れや調和がある。それでいて感情の芯を静かに揺さぶってくる。
10.Penguin Cafe – Cantorum
イギリス出身、Arthur Jeffesが2009年に創設したアンサンブル。父であるPenguin Cafe Orchestraの創設者Simon Jeffesの逝去(’97年)から10年後、その音楽の継承と自身の作曲を融合させる形で始動。フォーク、ジャズ、室内楽をベースに、アコースティック楽器でエレクトロニカのアプローチを再現するスタイル。「Cantorum」は2017年アルバム『The Imperfect Sea』収録。
静かな緊張感を帯びながら、弦楽器の儚さや繊細さが日没の景色に溶け込んでいく。そしてシネマティックな音像に捉えられ、あたかも自分がその映画の登場人物になったような錯覚すら覚える。
11.Ben Lukas Boysen – Nocturne 3
ドイツ出身、Ben Lukas Boysen。アンビエント、現代クラシックをスタイルとする。Hecqという名義でも活動しており、前作Vol.22にもクレジット。オペラ歌手と俳優の息子として生まれ、ワーグナーやバッハといった伝統音楽を学んだのち、エレクトロと現代クラシックを融合した作曲をしている。
緩やかなピアノの旋律に、クラシックの血統を感じさせる。それをドラムやスネアの音色が外しにかかりながらも、融合に至る構成。眠りに入ったばかりのように、夢の世界の幕が少しずつ開けていく。
12.Bonobo – Second Sun
イギリス出身、Simon Charles Green。現在はロサンゼルス在住。トリップホップ、ダウンテンポ、ジャズ、ワールドミュージックをスタイルとする。「Second Sun」は2017年アルバム『Migration』収録。同アルバムはグラミー賞Best Dance/Electronic Album部門にノミネートされている。
完全なる夢の中の海へ。晴れた海上を漂うようでもあり、日没の砂浜に立ち尽くしているようでもある。あるいは、まだ陽の昇らない静かな世界を眺めているのかもしれない。
13.The Cinematic Orchestra – To Believe
イギリス出身、Jason Swinscoeが創設したグループ。長年の共同制作者Dominic Smithも中核メンバー。ニュージャズ、ダウンテンポをスタイルとし、この曲はMoses Sumneyをフィーチャー。ジャズの即興演奏とエレクトロニクスを融合させたサウンドが特徴。
子守唄のような優しさ、はたまた死を悼む詞のような神聖さを醸す。曲や歌が映し出す情景はなく、真っ暗な空間に差し込む光に希望を見出し、ただ静かに自分を抱擁するような感覚だけが残る。
14.Brian Eno – Fickle Sun (ⅲ)I’m Set Free
イギリス出身、Brian Peter George St John le Baptiste de la Salle Eno。アンビエント、エクスペリメンタル、プログレッシブロックをスタイルとする。元Roxy Musicメンバーであり、David Bowie、Talking Headsとの共同制作でも著名。本曲は2016年アルバム『The Ship』収録のVelvet Underground(「I’m Set Free」)のカバー。楽曲はLou Reedとの共作クレジット。アンビエントという言葉を作った著名な人物として知られる。
エレクトロミュージシャンでありながら、その音楽性はクラブ系とは一線を画し、この曲を聴いていると、もはや“どこで聴くか”すら意味を失う。これは情景に頼るのではなく、人の心の内側から滲み出る心象風景を映し出す音楽だ。
CD2
1.Sasha – Vapour Trails
ウェールズ出身、Alexander Paul Coe。プログレッシブハウス、トランスをスタイルとする。DJ Magazine誌にて2000年に世界1位のDJに選出。John Digweedとのコラボでも著名。本曲は2016年アルバム『Late Night Tales presents Sasha: Scene Delete』収録。グラミー賞ノミネート歴あり。
トランス出身ゆえか、John DigweedやChicaneらと同じプログレッシブハウスの系譜を感じる作品。CD2のオープニングとしても、遥かな海が開けて行くような予感を掻き立ててくれる。
2.Goldfrapp – Beast That Never Was
イギリス出身、Alison GoldfrappとWill Gregoryによるデュオ。1999年結成。エレクトロポップ、ダウンテンポ、グラムロックをスタイルとする。本曲は2017年アルバム『Silver Eye』収録。グラミー賞ノミネート歴あり。
沈み込むようなダウンなムード。ボーカルにはどこか冷たさがあり、夏場にはそれが涼しさと受け入れられるだろう。そしてあからさまではないが、どこかヒトとしての野生の滾りを呼び起こす不思議な力を感じる。
3.Blank & Jones – Snappiness(Afterlife Mix)
ドイツ出身、Jan Pieter BlankとRené Runge(DJ Jaspa Jones)によるデュオ。プロデューサーのAndy Kaufholdも中核メンバー。トランス、ハウス、チルアウトをスタイルとする。Pet Shop Boys、Robert Smithら著名アーティストとのコラボでも知られる。元ネタはSoul Ⅱ Soulの『Happiness』。
このBlank & Jones版よりは、年代的にもB.B.G.によるもののほうが知られているかもしれない。こちらのバージョンでは濁りのない、絹のような肌触りの心地よさがある。
4.DJ Day – Four Hills
アメリカ出身、Damien Beebe。ヒップホップ、ジャズ、ファンク、ソウル、エレクトロニカをスタイルとする。ターンテーブリストでもあるマルチ奏者。本曲は2007年アルバム『The Day Before』収録で、Gilles PetersonのBBC Radio 1番組「Worldwide」にてTrack of the Yearにノミネート。
クセのあるボーカルとメランコリックな曲調。空間を満たすラウンジミュージックが、ソファにもたれた体を夏の午睡へと引き込んでいく。
5.Stimulater Jones – La Mano
アメリカ出身、Samuel Jones Lunsford。ジャズ、ソウル、ファンク、R&B、ヒップホップ、ダブをスタイルとする。Stones Throw Records出身のマルチ奏者。「La Mano」(スペイン語で「手」)は2021年発表のセカンドアルバムで、ドラムからピアノ、ギター、管楽器まで自ら演奏したオール生音インストゥルメンタル作品。
穏やかなジャズが内に秘めた息づく生命を呼び起こし、非常に上質な時間に包まれる。その余韻も歯切れ良く、しつこくない大人の余裕を感じさせる。
6.White Elephant – Sir John
イギリス出身、Crazy PのJim BaronとChris Todd、Smith & MuddのBen Smithによるコラボプロジェクト。バレアリック、ダウンテンポをスタイルとする。「valium-ambience(静けさの中に漂うアンビエンス)からKrautrock的ポップまで」と自ら表現する幅広い音楽性が特徴。
静けさという器から溢れ出す音の塊。ギターの音色には往年のバレアリックの隠し味があり、気づけば思わず身体が躍動している。
7.Calibre – Gentle Push
北アイルランド出身、Dominick Martin。ドラムアンドベース(リキッドファンク)をスタイルとする。「液体感あるファンク」スタイルのドラムアンドベースの先駆者として高い評価を受ける。自身のレーベルSignature Records主宰。ヴァイオリンで古典音楽を学んだのちドラムアンドベースに転向。Drum&BassArena Awards 2019 Critics Choice受賞。
重めのドラムが鼓動のように、シンセの流れが血流のように体を巡る。攻撃的ではないが、確かな力強さがある。
8.Moby & The Void Pacific Choir – Are You Lost In The World Like Me
アメリカ出身、Richard Melville Hall。エレクトロニカ、アンビエント、テクノをスタイルとする。本曲は2016年アルバム『These Systems Are Failing』収録。Moby自らメールアドレスを調べてコンタクトを取ったSteve CuttsによるアニメーションMVが話題を呼んだ。
The Void Pacific Choirは本アルバムのためのプロジェクト名義で、Jamie Drake, Jeff Sosnow, Joel Nesvadba, Jonathan Nesvadba, Julie Mintz, Lauren Tyler Scott, Mindy Jonesが参加している。
特徴的なプーンという跳ねるような音と、鐘の残響が混在しながら、しっかりとエレクトロニカとアンビエントが共存し、都会的なイルミネーションの中で迷路になるような感覚。
9.Jimmy Whoo – Outro
フランス出身のエレクトロニック・プロデューサー。シンセウェイブ、チルアウト、シネマティックをスタイルとする。「Motel Music」トリロジーで知られ、David LynchやNicolas Winding Refnのサウンドトラックを想起させる退廃的かつシネマティックな世界観が特徴。
漂うシンセに、ビターな男性ボイスとビートが夜の輪郭を浮かび上がらせる。渋みのある黒い外套を纏い、ひとり静かな夜道を歩いていくような感覚。
10.Song Sung – I’m Not In Love(Extended Mix)
アイルランド出身、Una McGeoughとGeorgina McGeoughの一卵性の双子姉妹によるデュオ。Song Sung名義だが、David Holmesプロデュースとして10cc「I’m Not In Love」のカバー作品。David Holmesの『Late Night Tales』(2016)に収録された。
クリアで、神聖さをも感じさせるボーカル。ただひたすら穏やかな曲調は、凪いだ海を無心に見つめるような、静かなトリップ感がある。
11.Gabin – Urban Night
イタリア出身、Massimo BottiniとFilippo Claryによるデュオ。2002年結成。エレクトロ・ラウンジ、ジャズ、ハウスをスタイルとする。バンド名はフランスの往年の俳優Jean Gabinへのオマージュ。本曲はゲストにジャズサックス奏者Stefano Di Battistaが参加している。
サックスの響きがどこか東洋的なエッセンスを含み、すんなりと気持ちを鎮めてくれる。寂しくもあり、しかしどこかに温もりが宿る。その正体を掴ませない成熟した世界観がある。
12.Still-Life & Tim Laverack – Milieu
イギリスのDJ・プロデューサー Paul Gribbyによるプロジェクト。アンビエント、ディープハウス、エレクトロニカをスタイルとするGlobal Underground、Cafe Mambo、Café del Mar等の世界規模コンピへの楽曲提供やUNKLEプロジェクトのリミックスでも知られる。Tim Laverackはコラボレーターとして参加。
そのディープな雰囲気は、体を底のない沼へと引き摺り込むような一種の恐ろしさすら感じさせる。だがその沼には、美しい夜空が散りばめられている。
13.Afterlife – Blue Bar(Chris Coco Remix)
イギリスのSteve Millerによるプロジェクト。もともと「Blue Bar」はCafé del Mar Vol.3への書き下ろし楽曲で、Jose Padillaの要請で制作されたCafé del Mar史に残る名曲。
リミックスを担当したChris Coco(本名Christopher Mellor)は、DJ・プロデューサー・ジャーナリストで、DJ Magazine創刊編集長でもある。このリミックスはVol.23のリリースに合わせて新たに制作されたものと見られる。
バレアリックを代表する、AfterlifeとChris Cocoのコラボ。そこに直接的な参加はなくとも、José Padillaの存在がしっかりと伺える。そしてToni Simonenがなぜこの曲を入れたのかも理解できる。Café del Marは変遷し、膨張し、故に系譜が出来上がる。
14.Sacha Puttnam – Abraham’s Theme(On-U Sound Dub)
イギリス出身の映画音楽作曲家。バークリー音楽大学卒業。Vangelis、Quincy Jones、Michael Kamenに師事。映画・TV向け劇伴を多数手がける。本曲は映画『炎のランナー(Chariots of Fire)』(1981)の、「Vangelis – Abraham’s Theme」のカバー/再解釈。ちなみにSacha Puttnamの父親であるDavid Puttnamがこの映画のプロデューサーを務めていた。
リミックスを手がけたOn-U SoundはプロデューサーのAdrian Sherwoodによるダブ・レーベル。
エンディングを飾るには当然で、有終の美をビッグネームに頼るようでありながら、ここまでの流れからして当然の帰結でもある。そしてその感動を押し付けない曲の短さが、かえって名残惜しさを深める。

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